「直して履く」が、文化になる日~靴を愛する人が開いた修理店~

直して履くが文化になる日

(「直して履く」が、文化になる日/シューフィルZAT’S No.35より転載)

「直して履く」が、文化になる日~靴を愛する人が開いた修理店~
靴修理は、ここ数年でミスターミニットが打ち立てたクイック修理からオールソールも普通にこなす、いわばこだわり修理に完全に舵を切った。
市場の変化は、ビジネスチャンスが顕在化したことの証し。量販店系からの他業種からの参入、また靴を志した人たちが修理で起業など、様々な動きが起こっている。
靴は本来、良い靴を買って、3年、5年、10年と長く履くものだ。長く履いてこそ、その靴の良さが引き出され、価値が増す。そのためには、修理がなくてはならず、長く履くという価値観があってこその修理だ。そして、この価値の連鎖があってこそ、「直して履く」が、文化になる。
しかし、前記したような修理ビジネスの変化、広がりが、「直して履く」文化に繋がっていくのだろうか・・・。
そんな折、気になる修理店が続けてオープンした。
「直して履く」が文化になる日、という問題意識を下敷きにして、紹介したい。

GMTファクトリー


「GMTファクトリー」
修理に留まらず カスタマイズも提案する、地域密着の小さな工場

小田急線と東京メトロ千代田線が乗り入れる代々木上原駅高架下の商業施設「アコルデ代々木上原」が6月23日、リニューアル・オープンした。
スーパーマーケットの小田急OX 、コーヒーと輸入食品のカルディ、スターバックスなど、ちょっと立ち寄りたくなる28店舗が入居しているが、GMTファクトリーは、その2階にオープンした。輸入靴卸のGMTによる靴修理店だ。
GMTは、輸入靴のヒット・メーカーだ。輸入代理店の一つとして「カンペール」を日本市場に紹介し、「ビルケンシュトック」がファッションとしてブレークするきっかけとなった原宿店を仕掛け、最近では「アイランドスリッパ」、また組織は別会社となるが、「パラブーツ」の輸入販売も、実質はGMTの仕事だ。
そんな存在なので、すわGMTの仕事がリペア・ビジネスに参入か。最終的にはそういう見方も間違いではないが、ビジネスから入らないのがGMTのやり方。だからヒットが生み出せているとも言える。
では、なぜ。その理由は、オープン地が代々木上原であることに隠されている。
GMTのオフィス&ショールームは、代々木上原にある。なぜなら、社長の横瀬秀明さんが、代々木上原で生まれ育ったから。
横瀬さんは、生まれ育った土地の人、店、街並み、それが醸し出す雰囲気を愛し、自分もその一員として、地域文化を育みたいと願って来た。
だから青山でも、原宿でもなく、代々木上原にオフィスを構えたのであり、08年には、代々木上原駅前に直営店「バーニッシュ」をオープン。代々木上原商店街に仲間入りした。
そしてGMTファクトリーは、バーニッシュに繋がっている。
「バーニッシュをオープンして初めてお客様の声が直接聞けるようになったのですが、『サイズが変わって着られなくなった』『足が痛くて履けない』、こんな声が続々。代々木上原にオフィスを開いたのは17年前。それ以来、年2回、ファミリーセールをやって来たので、相当たくさんの品物を代々木上原の皆さんに販売していた。それなのに、大事に長く使い続けたいものを使い続ける方法を伝えられていなかったのです」(横瀬さん)。
GMTファクトリーは、ここから始まった。故に代々木上原でなくてはならなかったのだ。
そしてそんな時、代々木上原駅のリニューアル計画を耳にし、「駅中にオシャレな修理・リフォーム店を作ろう」という計画が始動。また服はこっち、靴はこっちと修理店を回らなくてすむように、靴と服、それに傘や革製品全般の修理も受けられるようにと考えた。
残るは、修理店の要である技術者だが、これは問題なかった。国産物なら、不良や修理が出た場合、製造メーカーに依頼できるが、メーカーが海の向こうではそういう訳にも行かない。輸入卸は、修理メーカーや職人とネットワークを持たないと成り立たない業種なのだ。
実際の修理は、そんな業者に委託している。靴は、東京修理センター・リーガル。1972年創業で、江戸川区と千葉・市川に店舗を構え、著名インポートブランドの修理を多く手掛けている。服は、ジョルジオ・アルマーニなどのお直しなどを手掛ける職人さんだ。
GMTファクトリーのオープンで、「地域のお客さまに気に入った物を大事に長く使って欲しい」という横瀬さんの思いが実現した訳だが、横瀬さんの思いはさらに膨らんでいる。
「あるセレクトショップからパラブーツでオリジナルをといった要望があったのですが、ロットの関係でオリジナルは無理。だったら靴紐をオリジナルにして選べるようにしたらどうかと提案したら、これが大好評でした。靴紐を変えるだけで自分だけのオリジナルにできるし、またソールが減ったら、新しいデザインのソールにすれば、全く違う靴になります。修理だけでなく、リフォーム、さらにはカスタマイズの小さな工場として、GMTファクトリーを利用して欲しいと考えています」。
そして「代々木上原だけでなく小田急線沿線に出店できるといいですね」と。百貨店からも声が掛かること可能性十分だろう。
★GMTファクトリー=東京都渋谷区西原3-8-5 アコルデ代々木上原A-202 TEL03-6416-8703

ユニオンワークス


「ユニオンワークス」
嫌な思いをさせない修理を続けて15年。銀座店をオープン

ロンドンの伝統的店舗のようなファザード、店内はシャンデリアにアンティークのテーブル等々、働く人は白シャツに黒の長いエプロンのダンディな出で立ち。
企業が高級修理店を出店する場合、こんなイメージの店を作りそうだが、このモデルは、ユニオンワークスが創り上げたものだ。
創業者で代表の中川一康さんが、修理店を開いたのは、15年前。
靴修理と言えば、FC展開のクイック修理しかなかったような環境だったが、確かな修理でファンを広げ、川崎に工場兼ショップ、7年前に青山店、そしてこの6月に銀座にもオープンした。
銀座店は、銀座1丁目の裏通りだが、古いビルが残り、ギャラリーやアンティークショップが点在する。ユニオンが入るビルも数少ない古いビル。ユニオンワークスが入るのを待っていたように、ビルとファザードがマッチしている。
さて、高級修理の先駆者である中川さんは、修理の世界が現在のようになること、自店舗が4店舗になることを予想していたのだろうか。
「4店舗にしようとして、ここまで来た訳ではありませんが、高級靴ブームがあり追い風はありました。仕事が増えて、どうしようかと迷った時、三つの選択肢から選んで来ました」(中川さん)。
その選択肢とは、
①人を増やす
②価格を高くするなどして、客をフィルにかける。
③修理を断る
現在、ユニオンワークスの従業員は22名。①を選択したということだが、求人をして集めた訳ではない。働きたいという人たちが向こうからやって来た。仕事の質が、呼び寄せたのだ。
だが、22名ともなると、その仕事の質が維持できるかが、最も大きな問題となる。工場では、中川さん本人か、工場長が必ず検品している。
しかし、それより何より次の言葉。
「お客様に嫌な思いをさせないこと、それが鉄則です」。
では、「嫌な思いをさせない」とは、どういうことなのか。それが、銀座店にあったパンフレットに、印象的な言葉で書かれていた。
「(前略)自分の手にかかる靴は、ただ履けるようにするのではなく『元のデザインに近づける』事を念頭におき、自分自身の大事な靴だと思って修理します。修理したら雰囲気が変わってしまったということを無くしたいのです。(後略)」。
「青山店が軌道に乗るのに3年掛かりました。銀座店も3年やってみてダメなら閉めます」。
3年待たずして軌道に乗るに違いない。
★ユニオンワークス銀座=東京都中央区銀座1-9-3 奥野ビル103 TEL03-5159-5717

リファーレ


「リファーレ」
良い靴を売ることと修理、そして靴磨きを、一つの価値で繋げたい

東京・恵比寿にあるリファーレは、靴販売と修理を同一店舗で行っている。気になってい店なので、この機会に紹介する。
リファーレのオープンは、05年。ユニオンワークスも靴を販売しているが、オープン当時、目新しいスタイルだった。
なぜ、そうしたのか。その理由を社長の松添康太郎さんは次のように話してくれた。
「ヨーロッパでは、良い靴を当たり前で売っていて、それを長く、美しく履くために修理店、そして靴磨き店がある。こうして繋がっているのは、靴の価値が分かっているから。靴と修理、そして靴磨きを一つの店舗でやりことによって、靴の価値を知って欲しかった。
そして、タイミングとしても05年は好機だった。2000年から高級靴ブームが始まり、修理に興味が向き始めていました」。
狙い通りの反響。リファーレがプロデュースする修理店「リファインアームズ」は有楽町マルイなど4店舗となっている。
しかし、この景気。高級靴ブームは去った。そんな環境下での修理をどう見るのか。
「インポートの高級靴はダウン・トレンド。売上はピークの6掛けくらいになっているでしょう。修理は伸びているが、これからは、価値をどこに見いだすかが問題。自分は、そのポイントは、お客様とのトークだと思っています」。
松添さんは、靴好き。靴マニアと言っていいだろう。300足近いコレクションを持っているのだと言う。
だが、それを見ているだけではない。履いて、履き心地と造りを確かめ、名品とされる古い靴を手に入れると、敢えて修理させたり、時あるごとに薀蓄を語って聞かせたりしているのだそうだ。
「情報の共有が必要だからですが、修理する人間とお客との間では、もっと大事。だからうちの店では、修理する人間が必ず接客する。そうすれば、否が応でも話さなければならず、その時に靴のいろんなことが話せるように、名品を修理させたり、自分が知っていることを伝えたりしている。そのトークが情報の共有をもたらし、価値が共有できるようになる。そうなって初めて、靴の価値が分かるようになり、靴修理、靴磨きが、一つの価値観で結ばれます」。
納得である。きっと言葉で伝えるものの中に文化を育む要素が含まれていると思うから。「長く履く」が文化になる日は、遠くはないかもしれない。
個の空きに有楽町阪急が、メンズ館に全面リニューアルするが、リファーレ・プロデュースの修理店ができる予定だ。
★リファーレ=東京都渋谷区恵比寿南2-7-1-1F TEL03-5768-1373

(以上、シューフィル「ZAT’S No.35」より転載終了)

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国内イベント-「くつくつくつく2」(靴作家4人による受注・販売・大展覧会)

くつくつくつく2の告知ポスター

(「くつくつくつく2」/シューフィルZAT’S No.35より転載)

「くつくつくつく2」
8月6~8日/東京・勝どき THE NATURAL SHOE STORE(東京都中央区勝どき4-6-1泉5倉庫)
代官山の古民家のような仕舞た屋に、靴を作ることを生業とする若者4人が集まり展示会を開いた。雑然と並べられた靴、靴、靴、靴。美しく仕立てられたドレスシューズなど一足もなかったが、靴がそれぞれの生活、生き方を語っていて面白かった。
あれは、2004年のこと。7年の歳月を経て、再び7人が集う。増満兼太郎、セツリュウ、相馬紳二郎、曽田耕が、受注・販売・大展示会。
今度の場所は、打って変わって、勝どきの倉庫に設けられた空間。喫茶コーナー、オムツ替えや授乳ができるキッズルームも用意されている。
野島孝介も京都から特別参加する。

文/写真:シューフィル